高知地方裁判所 昭和35年(ヨ)206号 決定 1960年12月13日
申請人 金星製紙株式会社
被申請人 紙パ労連金星製紙労働組合
主文
一、被申請人組合の組合員は、別紙目録記載の土地及びその上にある建物のうち、被申請人組合事務所及び製図室(別紙図面赤斜線部分)ならびに購売部室(同図面黄斜線部分)をのぞくその余の土地及び建物内(別紙図面青線で囲まれた部分)に立入つたり、また第三者を立入らしめてはならない。
二、被申請人組合は、申請人会社役員、被申請人組合所属の従業員以外の申請人会社従業員及び申請人会社と商取引関係にたつ第三者が右土地及び建物に出入するのを実力でもつて阻止し、また第三者をして阻止させてはならない。
三、被申請人組合は、申請人会社又はこれと商取引関係にたつ第三者が右土地及び建物内に原料、燃料を搬入し、製品を搬出するのを実力でもつて阻止し、また第三者をして阻止させてはならない。
四、申請費用は被申請人の負担とする。
(注、保証金三〇万円)
理由
一、当事者の求める裁判
申請人は、主文第一項ないし第三項同旨の決定を求め、被申請人は、申請を却下する旨の決定を求めた。
二、当事者双方の提出した疎明資料により当裁判所の認める事実関係ならびにこれに基く判断は次のとおり。
(一) ロツクアウトに至る経過
申請人は、肩書地に本店を置き、高知市及び高知県吾川郡伊野町に四国銀行から土地及び建物を借受け(以下高知工場又は伊野工場という)、簿葉紙、タイプ紙、マニラ仙貨紙、京花紙、パルプなどを製造、販売する従業員約二六〇名の株式会社(以下会社という)であり、被申請人組合は右従業員のうち約七〇名によつて組織される労働組合(以下第一組合という)である。第一組合は昭和三五年四月中旬頃から賃金引上げ、及びユニオンシヨツプ協定の締結などを要求し、会社と争議状態にあつたが、同年六月一日会社との間に、(一)会社の従業員は第一組合員でなければならない。(二)第一組合から除名された者は会社において解雇する、などの条項を含むユニオンシヨツプ協定を締結し、争議は終結した。第一組合は、その後組合からの除名者五名について、右協定に基いて、会社にたいし解雇を要求し、同年七月以降数回にわたり団体交渉がなされたが、右ユニオンシヨツプ協定は、第一組合がその余の従業員(以下第二組合という)と統合することを条件として効力を生ずる旨の合意を前提としたもので、過半数にも満たない第一組合との協定として扱うことは、協定締結の時の合意にも反し、かつ法的な効力にも疑義があるとの会社の見解と対立し、第一組合は同年一〇月二七日会社にたいし、右組合脱退者の解雇要求遂行のため、同月二八日以降随時ストライキを決行する旨の通告をし、さらに同月三一日午後六時頃高知工場(別紙目録記載の土地建物)内において、第一組合を支援する外部者約一五〇名を交え、会社にたいし、ストライキ通告をするとともに工場の電源室に入り電源を切断し、作業を続行できないようにしたうえ、電源室の前に座り込んで電源室を確保した。
(二) ロツクアウトの状況
第一組合は、前記ストライキを行つてから、同日午後一〇時頃会社に対し、ストライキ解除の通告をし、翌一一月一日は工場内において就労していたが、第一組合からなされた随時ストライキを行う旨の通告が解除されていないこと、第一組合では今後前記ストライキ以上のより効果的なストライキを行うことを計画しているとの情報があつたこと、同年四月中旬以降行われたストライキにおいて工場占拠が行われ、営業上多大な損害を受けたいきさつから、今後同様なことが繰返される危険があると推測されたこと、工場内でのストライキによつて第一組合員と第二組合員との間に紛争が起きるおそれがあること、などの諸点から、会社は同日午後五時頃第一組合にたいしロツクアウトをする旨の通告をすると同時に、伊野工場を閉鎖し、高知工場(別紙目録記載の土地及び建物)内にいた第一組合員にたいし退去を求め、或はスクラムを組むなどの方法により、工場外に退去させ、正門を閉鎖するにいたつた。右ロツクアウトは現在まで続行されている。
(三) ピケツテイングの状況
第一組合は、会社の前記ロツクアウトにより工場外に退去すると同時に工場の唯一の出入口である正門前にピケツトをし、外部支援団体を交え、常時数名ないし数一〇名を動員し、右正門前を主とし、工場敷地沿いに見張りをして会社役員及び第二組合員の出入、原料、製品、などの搬出入の阻止をはかり現在にいたつている。その現況についてみるに、(イ)会社正門は外部からバリケードを築き内部からの原料、製品などの搬出入を阻止している、(ロ)会社役員が地方労働委員会、警察などに用がある場合はあらかじめ連絡して迎えに来てもらつて正門横の通用門から出ている状態で、同月八日以降に会社代表者、川井、池上両常務取締役が通用門から出ようとしたさい第一組合員から通用門内に実力によつて押返されている、(ハ)工場内にいる第二組合所属の組合員は通用門からの出入を断念し、わずかに塀を乗り越えるとか、建物の窓から出入しており、さらにそのさい第一組合員の見張に発見された第二組合員杉谷昭一、近添光男らは第一組合の斗争本部である一二三旅館に実力で強制的に連行され、第二組合からの脱退を要求されている、(ニ)同年一二月九日会社の炊事用石炭を通用門から会社内に搬入しようとした申請外野村産業株式会社作業課長北代俊夫は、第一組合員の説得にもかゝわらず乗車してきた貨物自動車を進めようとしたが第一組合員がスクラムを組んでいる状況などもあり、紛争をさけるため搬入を断念したとの事実を認めることができ右のような事情を合せ考えると、原料、製品など営業継続を前提とした物品は勿論、会社役員、第二組合員ならびに会社と取引関係にある第三者の出入は全然不可能ではないとはいえ実力によつてその交通を阻止される危険性は多分に現存する状況にあるものと考えられる。
(四) 申請の趣旨第一項(立入禁止)について
事業所への立入りを禁止することは事業所を所有又は占有して管理する使用者として、ロツクアウトをすると否とにかかわらず、不当労働行為を構成するような場合を除きいつでもなしうることである(賃金支払義務があるか否かの点は別として)。従つて本件ロツクアウトが先制的ないし攻撃的であるかどうかの判断をするまでもなく―この点の違法を理由に賃金支払請求権を行使することはできても使用者に就労を要求する権利はないと解するのを相当とするから―立入禁止の必要性が充足されゝば、使用者によるこの種の申請は理由があるものと考えられるが、かりに違法なロツクアウトがなされた場合、工場内に立入つて就労する権利があるとする被申請人主張の見解によつても次に述べるとおり理由がない。
(1) 攻撃的ロツクアウトであるとの点について
本件ロツクアウトは前記ロツクアウトの状況(二の(二))において認めたような状態においてなされたもので、右事情を綜合すれば会社と第一組合の間にはなお争議状態が現存し、かつ第一組合がいつストライキを行うかもしれない状態であつたことは明らかである。右のような事情のもとになされたロツクアウトは対抗的もしくは防禦的なもので、攻撃的ロツクアウトとは認められない。そして右のようなロツクアウトは労働法上の労使対等の原則及び衡平の理論から適法なものと考えられる。
(2) 不当労働行為を目的としたロツクアウトであるとの点について、
(イ) 疎明によれば、昭和三五年四、五月頃(前回の争議中)第一組合員のうち約七〇名の組合員が会社の誘引に応じて村の家会館に集合したと推認される事実があつたこと、その頃従業員住本昌謙、井上正夫、松岡重喜、和田土佐男、西内武博、中北嘉博、石本実、野中靖三郎、森本光雄らが第一組合の分裂をはかるような行為に出たこと、本件ストライキがなされる前後に課長代理中岡某が第一組合員藤岡巖にたいして金六〇、〇〇〇円を融通する旨の話をしたこと、第二組合の書記長が第一組合員津野敏雄ほか二名を飲食店に誘い、第二組合に加入する書類に押印させるのと引換えに合計八七、〇〇〇円を渡し酒肴を提供したこと、などの事実を認めることができるが右事実はいずれも前回の争議(昭和三五年四、五月頃)のさいの事実であつたりまた第二組合員からする第一組合員への脱退工作であり右事実から直ちに会社が第一組合に対する支配介入を意図して第一組合員の脱退、ないし第二組合への加入工作をしたものと認めることはできない。
(ロ) また、会社は現在までロツクアウトにより第一組合員の労務の受領を拒否しているが、前記認定のように会社と第一組合との間の団体交渉は決裂し、第一組合によつてなされた随時ストライキ通告は解除されておらず、かつ会社正門前には第一組合員が待機又は見張りをしており、さらに疎明によれば同年一一月八日第一組合員が支援団体の応援を得て就労のため会社正門から工場に入ろうと強行し第二組合員との間に紛争を生じ負傷者を出した事実が認められ、右のような争議行為ないし争議状態にたいしてロツクアウトが継続されていることは必要やむをえないことで、単にロツクアウト期間が長期にわたつていることのみをもつて、会社が第一組合にたいして支配介入をしていると認めることはできない。
(ハ) また疎明によれば、会社が、第一組合員のみにたいして、ロツクアウトを行い、現在まで、第二組合員によつて暫定的に操業を続行してきたことは認められるが一部の組合にたいするロツクアウトが直ちに差別的な取扱であるということはできず、かつ第一組合との対抗関係において、集団的争議手段としてなされたものと認められるから、右事実のみをもつて、会社の支配介入があつたと認めることはできず、さらに第二組合が会社の支配介入によつて成立したものであることについての疎明は充分でない。
(ニ) そして以上(イ)ないし(ハ)において認められる諸点を合せ考えても、会社が本件ロツクアウトにより第一組合にたいして不当労働行為を行つていると認めることはできない。
(3) 福祉施設にたいするロツクアウトについて
疎明によれば本件ロツクアウトにより会社は第一組合の組合事務所(同じ場所にある製図室も含む)購買室ならびに従業員共用の食堂、浴場などから第一組合員を退去させていることが認められる。右食堂、浴場は事業継続を前提としてその利用が必要とされるものであると考えられるからこれをも含めて第一組合員に退去を求めることは一応必要やむをえないものと考えられるが、第一組合専用の事務所(同じ場所にある製図室も含む)及び購買室にたいするロツクアウトは、第一組合員が従業員として会社と雇傭関係にある以上違法であるものというべく、会社はその占有ないしは管理権をもつてしても第一組合員の使用を妨げることはできない。しかし、右の違法はこれをもつて本件ロツクアウトを違法ならしめるものとはいえず、また、疎明によれば、現在会社は右事務所、購買室についても外部から通路を作り、出入可能の状態にあるから、この点に関する違法もない。
そして、現在第一組合員によつてなされているピケツトの状況は前記二の(三)において認定したとおりであり、また、ロツクアウト中の一一月八日第一組合員が会社の正門から入ろうとして紛争を生じた前記認定の事実、及び一〇月三一日会社内の電源スイツチを切断し、業務を停止させた事実などの諸点からすると、若し会社が、正門から原料、製品などを搬出入しようとすれば、そのさい会社内に立入り第二組合員らと紛争を起し、そのため会社の業務が阻害され、或は工場施設が損壊される危険なしとしない。従つて会社において右のような必要性から本件土地及び建物ならびに機械施設の占有権に基いて申請趣旨のような立入禁止の仮処分を求めることは理由があるものといわねばならない。
(五) 申請趣旨第二、三項(出入及び搬出入妨害禁止)について
現在第一組合によつてなされているピケツテイングの状況は前記二の(三)において認定したとおりであり、本件土地建物への出入及び原料、製品などの搬出入阻止は、言論による説得又は団結による示威の程度をこえ又はそのおそれがあるものと認められる。そして疎明によれば会社は、右ピケツテイングなどのため現在操業ができない状態であり今後操業を始めるとしても、在庫石炭は殆んどなく、パルプ晒粉、苛性曹達などの主要材料及び補助材料も約二日ないし七日間の使用量を残すのみとなつており、これらの原材料を外部から工場に搬出入し、かつ右搬出及び将来の取引に関し会社役員及び第二組合員ならびに会社と商取引関係にある第三者が工場内に出入することができなければ、会社の経営に関し、財政上重大な損害が生ずるものと認められる。被申請人は、ロツクアウト中は会社は操業の権利はないと主張するが、ロツクアウトは、あくまで労務の受領拒否を本質とし、その反面会社の操業の権利ないし自由を奪うものではない。従つて本件において、ロツクアウトをしていない第二組合員をして操業を続行することは、不当労働行為とならない以上(本件について不当労働行為が認められないことは前述のとおり)、当然認容さるべきものといわねばならない。
そして、今後会社が、操業開始のため、本件工場から、原料、製品などの搬出入をしたり、会社役員ならびに第二組合員ならびに会社と商取引関係にある第三者が出入する場合前記二の(三)において認定したピケツテイングの状況からして、第一組合員から実力によつて阻止される危険が充分認められるものといわねばならない。従つて右のような必要性から、会社において、本件土地建物ならびに機械設備の占有権に基いて、申請趣旨のような妨害排除を求める本件申請は理由がある。
(六) なお仮処分手続を書面審理ないし審尋によつて行う場合、口頭弁論に関する民事訴訟法第二三二条、第二三三条、第一三九条の適用ないし準用はないと解されるからこの点に関する被申請人の主張は理由がない。また経営権ないし操業権は所有権又は占有権の社会的機能ないし作用として認められるものであるから、被申請人主張のように占有権が本件仮処分の被保全権利となりえないものであるとか、被保全権利が占有権である故をもつて仮処分の必要性を欠くということはできない。
(七) よつて申請人会社の本件申請はいずれもこれを認容し、申請人会社に保証として金三〇万円を供託させ、かつ申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。
(裁判官 合田得太郎 島崎三郎 加藤義則)
(別紙省略)